The Bet On Juniors Just Got Better
Kent Beck氏の記事では、若手(ジュニア)開発者への投資がAI時代のいまこそ有益であるという論を展開している。その内容がおもしろかったし、なるほどなあと思わされたので紹介したい。気になったら原文を読んでほしい。
Folks are taking knee-jerk action around the advent of AI—slowing hiring, firing all the juniors, cancelling internship programs. Instead, let’s think about this a second.
The standard model says junior developers are expensive. You pay senior salaries for negative productivity while they learn. They ask questions. They break things. They need code review. In an augmented development world, the difference between juniors & seniors is just too large & the cost of the juniors just too high.
Wrongo. That’s backwards. Here’s why.
似たような論として、業界が先細るなどの理由から若手を「育成すべき」であるとか「育成しなければ」とか、そういったデメリットの回避の論調をは見かけることがあったが、Kent Beck氏の論はそれとは違う。いま若手を「育成すると得」だと、シンプルにメリットがあると述べている。
The Valley of Regret
その論の中心は、The Valley of Regret(後悔の谷)と呼ばれるモデルだ。若手を採用したあと、しばらくの期間は投資対効果が見合わない期間があり、その後しばらく経って成長すると投資対効果はプラスに転じる。その曲線のことだが、投資対効果がマイナスに振れている期間のことをThe Valley of Regretと呼んでいる。
That red zone—the “valley of regret”—is where things go wrong. You’re spending money. You’re investing senior attention. And every month the junior is in that valley, something can happen: they get a better offer, they decide engineering isn’t for them, your startup runs out of runway, there’s a layoff.
単に人件費に見合うアウトプットが出ないという話だけでない。その期間に教育係となるシニアの負担、育ってきたころに他社に奪われたり、そうこうしている間に会社の状況が悪化して資金が尽きたり…など。
そのような状況で、AIの到来が何をもたらすか。Kent Beck氏は後悔の谷が短くなることに注目している。AIツールは生産性を高めるものとして注目され、投資対象になっているが、こと若手開発者においては学習を加速させるツールとして使うことが重要だと述べる。
I’ve been watching junior developers use AI coding assistants well. Not vibe coding—not accepting whatever the AI spits out. Augmented coding: using AI to accelerate learning while maintaining quality. Remember, you’re managing for learning, not production.
AIからの支援によって後悔の谷の期間が短くなり、若手開発者への投資がリターンを生むまでのリードタイムが短くなる。リードタイムが短くなれば途中で台無しになるリスクも小さくなる。そして若手の離職率は高い。投資分が回収できる前に離職されたら損をするだけだ。早く後悔の谷を抜けてもらうことで収益性が高まるし、より早く成長できる環境は若手開発者にとっても魅力的で、離職リスクへの対処にもつながる。
したがって、AIを使うことで生まれる若手開発者の時間的余裕は、自身の学習のために再投資されるべきで、単なる工数として収益性の低い業務のために消費されるべきではないということになる。
The time freed this way isn’t invested in another unprofitable feature, though, it’s invested in learning.
結論
記事の結論は次の2点。
- 若手人材への投資は今やより効果的な選択肢となっている。
- ツール開発への投資は人材採用への投資でもある。
Kent Beck氏が重要視しているのは、「これまで採用できなかったレベルの若手人材にも、利益を見込める投資が可能になった」ということだ。いままでは育成するのに見合わないと判断せざるを得なかった若手開発者も、これからはAIツールの活用を前提にすることで採用候補に乗せることができるようになるだろうと見ている。そしてそれは、スキルの低い開発者にAIで下駄を履かせて生産性を補強するということではない。一人前の開発者になるまでの育成期間が圧縮されるからだ、ということだ。ここを勘違いするとAIに依存していつまでもスキルが身につかない若手が生まれてしまうだろう。
よって重要なのは、バイブコーディングでアウトプットが出せて満足するのではなく、自身のスキルを拡張するようにAIを活用するコーディング(augmented coding)を行わせる必要がある。AIツールを与えただけでは後悔の谷の圧縮は実現せず、シニア開発者やマネージャーによる指導が必須である。組織の側も変革する必要がある。
The compressed ramp doesn’t happen automatically. It requires intentional investment in how juniors learn using the genie. Not vibe coding—augmented coding. That’s a skill, and you have to teach it, encourage it, refine it.
The bet has gotten better. Better if you manage juniors for learning & not production.