オライリーの『SLO サービスレベル目標』を読み終わった。よく書かれたおすすめできる本だった。
どんな本だったか
量的構成
本書は3部構成になっている。それぞれ第Ⅰ部「SLOの開発」、第Ⅱ部「SLOの実装」、第Ⅲ部「SLOの文化」となっており、それぞれのページ数の割合は次のとおり。第Ⅱ部がおよそ半分を占めており、第Ⅰ部と第Ⅲ部が残り25%ずつといったところ。実際にSLOを始めるための実践的なノウハウに重きが置かれているといえる。
章ごとのページ数は次のとおり。ページ数が多い順に並べると、
- 9章 SLIとSLOの確率と統計
- 11章 データの信頼性
- 5章 エラーバジェットの使い方
- 8章 SLOの監視とアラート
- 4章 適切なサービスレベル目標の選択
ということになっている。9章だけで15%を超えているが、これは9章の前半が確率と統計の基礎的な用語の導入に費やされていることと、本文中の図表の数がとても多いことによる。一方11章はほぼ文章だけだが8.5%を占めており、読後の存在感も大きかった。
また、本書はAlex Hidalgo氏の単著のような表紙をしているが、実はけっこうな割合を寄稿が占めている。Alex氏が書き下ろしている章は以下のものだ。
- 第Ⅰ部: 1,2,3,4,5章(すべて)
- 第Ⅱ部: 12章のみ
- 第Ⅲ部: 14,15,17章
ページ数の比率で見れば、寄稿のほうが多い。特に第Ⅱ部にいたってはほぼすべて寄稿である。
感想
この本の主題は(少なくともAlex氏の章については)終始一貫している。信頼性とはユーザーからの期待に応えているかどうかであるということ、そして、「100%は不可能である」ということだ。ユーザーから見る(体験する)サービスの状態はどうかにフォーカスしなければ、意味のあるSLOは作れないし、活用もできないということがひたすら書かれている。最後まで筆者の軸はブレず、読んでいて矛盾や不整合を感じることはほとんどなかった。そういう点でもよく書かれた本だと思った。
SLIとは、SLOとは、信頼性とは何かという本質的なテーマは第Ⅰ部で完結している。ここまで読んでおけばSLOにまつわる概念について共通言語を獲得できるはずだ。そこから先はSLOを始めるための実用的なノウハウが長く続く。組織にSLOを導入していこうとしている場合はすべて読む意義は大きいと思うが、SLOの概要を掴みたいだけの人にとっては第Ⅰ部だけで十分だと感じた。もし全体のボリュームのせいで読むのをためらっている人がいたら、とりあえず第Ⅰ部だけ読んでからあらためて積読に戻してもらいたいくらい、第Ⅰ部はすばらしかった。
寄稿部分の癖
第Ⅱ部に入ると寄稿が多くなるが、章ごとに文章の雰囲気がコロコロと変わることで読みづらさを感じることがあった。真面目なタッチの文章のあとにいきなりジョークが好きな筆者の章に入ると読者側のリズムが乱される。読み切りたい場合にはこの点を留意して、章ごとに小休止挟むとよさそうだ。